CRA(臨床開発モニター)は、治験を実施する際に遵守すべき基準であるGCPや治験の計画書に従って、治験が適切に行われるように監視(モニタリング)する仕事です。製薬会社や病院で働くさまざまな職種の方と協力して業務を行います。
この記事では、現役のCRA(臨床開発モニター)の声や現場の裏話、写真やイラストを交えて、CRA(臨床開発モニター)の仕事内容を分かりやすく解説しています。「CRA(臨床開発モニター)って何をする人?」「CRA(臨床開発モニター)の仕事内容が分からない!」という方は、ぜひご覧ください。
CRA(臨床開発モニター)の仕事内容とやりがい
治験開始前の準備
治験を実施できるかどうかを確認するため、医療機関、医師、IRBに対して調査を行います。
医療機関の調査
MRや他の医療機関の治験担当医師から情報を得たり、ホームページや治験審査委員会のSOP(標準業務手順書)、内規などを参照したりして、治験の実施状況に関する情報を集めます。
治験が適切に実施されているかどうか、治験を行う際の手続きや治験費用、補償と賠償、SDV受入状況など、その医療機関で治験を行うために必要な条件を確認します。
治験責任医師の調査
治験責任医師がGCP(治験を実施する際に遵守すべき基準)42条の要件を満たしているかどうかを確認します。
具体的には、GCPを十分に理解して遵守できること、モニタリングや調査の受け入れが可能であること、募集期間内に適切な被験者を集められることなどを調査します。
IRB(治験審査委員会)の調査
IRB(治験審査委員会)の構成委員や開催要件が、GCP(治験を実施する際に遵守すべき基準)に準拠しているかどうかを、議事録やSOP(標準作業手順書)から確認します。
治験契約の締結
医療機関と製薬会社との間で治験契約を結びます。その後、IRBの承認を得ます。
治験契約の締結
プロトコール(治験実施計画書)や治験責任医師の責任範囲について合意した後、契約書を締結します。
IRB(治験審査委員会)の開催
IRB(治験審査委員会)を開催し、審査を依頼します。CRA(臨床開発モニター)は、IRB(治験審査委員会)がGCP(治験を実施する際に遵守すべき基準)に準拠して運営されているかどうかを確認した上で、治験を行うための承認を得ます。
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- CRAの辛いことは試験の立ち上げ時のIRBの締め切り
治験の終了日の変更は難しい場合が多ため、治験の実施期間が短くなり、治験のスムーズな進行に影響を及ぼしてしまう可能性があります。
治験の開始
医療機関の関係者に治験の内容を説明した後、治験薬を渡します。
医療機関への治験の説明
治験について説明するため、医療機関で勉強会を開催します。
この勉強会では、治験薬やプロトコール(治験実施計画書)、SOP(標準業務手順書)の詳細について説明します。特に治験コーディネーター(CRC)とは、全ての疑問点が解消されるまで、繰り返し打ち合わせを行います。
勉強会には、治験責任医師や治験コーディネーター(CRC)だけでなく、看護師・臨床検査技師・薬剤師・事務局担当者など多くの関係者が参加します。
《 SOP(標準業務手順書)の主な内容 》
- 治験実施計画書
- 治験薬概要書
- 安全性情報の取り扱い
- 治験薬の管理
- モニタリング全般
- 監査
《 プロトコール(治験実施計画書)の主な内容 》
- 治験の概要
1)目的
・対象患者、治験薬名、投与量、投与期間、目指す効果など
2)対象
・選択基準(性別、年齢など最低限満たさなければならない条件)
・除外基準(合併症、基礎疾患、アレルギー、妊婦など治験に参加できない条件)
3)被験者への説明と同意に関する記述
4)目標症例数
5)治験実施期間
6)治験薬剤
7)治験方法及び投与方法 - 治験計画の背景(開発の経緯、毒性作用、薬理作用、先行試験の結果など)
- 治験の方法
1)治験の種類
2)治験のスケジュール(投与期間など)
3)被験者の募集・登録方法
4)投与方法 など - 治験の中止、脱落基準
- 被験者の機密保持(被験者は識別コードを使用、実名は症例報告書には記録しない)
- データの解析方法
《 治験薬概要書の主な内容 》
- 薬の開発経緯
- 薬の性質や組成
- 前臨床試験の結果(薬の効果や安全性など)
- 海外の臨床薬理試験のデータ
最初は訪問頻度を多くしたり、治験コーディネーター(CRC)と相談しながら医師の性格を把握したり、メールの書き方や病院特有のマナーなどに気をつけながら、信頼関係を築いていきます。診察の邪魔をして、医師を不機嫌にさせることは避けましょう。
治験薬の交付
CRA(臨床開発モニター)は、治験薬管理手順書に従って薬剤部の治験薬管理者に治験の内容を説明した後で、治験薬を渡します。特にプロトコール(治験実施計画書)の逸脱となる禁止併用薬については、丁寧に説明を行います。
同じ病院で複数の治験が行われている場合は、薬剤部が混同しないように、治験名や薬効群別、五十音順などで一覧表を作成するなど、分かりやすい管理方法を提案する必要があります。また、指定された温度での管理を適切に行うよう指導します。
《 治験薬管理手順書の主な内容 》
- 名称・剤形・成分など
- 用法・用量など
- 取り扱い方法
- 処方方法
- 回収方法
各関係者との調整
CRA(臨床開発モニター)は、治験をスムーズに進めるために、様々な立場の人と情報交換を行います。
各関係者と打ち合わせが必要な内容
- 病院の長・・治験を始めるときや、重要な情報を報告
- 治験責任医師/PI・・治験が適切に行われているかを全体的に確認
- 治験分担医師/SI・・治験が適切に行われているかを個別に確認
- 医事課・・費用
- 薬剤師/治験薬管理者・・服薬のスケジュールや方法
- 臨床検査技師・・検査項目や検査スケジュール
- 放射線技師・・検査項目やフィルムの扱い
- 看護師・・患者の対応方法
- SMA・・書類の管理方法
- CRC・・治験において終始情報を共有する
- DM・・データに不備がある場合は修正の指示を求める
- PV・・医薬品の安全性情報を確認
- QC・・モニタリング報告書などについて不備がある場合は指示を求める
- 開発企画・・治験実施計画書(プロトコール)の内容を確認
- MW/薬事・・申請書類や報告書の作成の際にアドバイスを求める
- PV・DM・CRC・SMAの仕事内容はこちら
同意説明文書の作成・被験者の登録促進
同意説明文書の作成をサポートし、被験者の登録を促進します。
同意説明文書の作成
治験責任医師は、被験者から治験への参加について同意を得るために使用する同意説明文書を作成します。CRA(臨床開発モニター)は、同意説明文書の作成に必要な資料を提供したり、内容を確認したりしてサポートします。
《 同意説明文書に記載する内容 》
- 治験の目的
- 治験責任医師の氏名や連絡先
- 治験の方法
- 予測される治験薬の効果および不利益
- 秘密保持
- 補償に関することなど
被験者登録の促進
治験を行う際に困難な場面の一つが被験者の登録です。CRA(臨床開発モニター)は様々な方法で、被験者の登録を促進します。
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- 被験者スクリーニング
被験者の登録促進の具体例
- 登録基準に該当する被験者が少ない場合治験担当医師に協力をお願いしたり、電子カルテのスクリーニングを行ったり、ボランティアや広告を利用するなどして、被験者の登録数を増やします。
- 登録基準に該当する被験者はいるが、治験への参加に同意してくれない場合治験への参加を促すための資料を用意したり、治験コーディネーター(CRC)と相談してインフォームド・コンセントの方法を見直したりして、治験への参加率を高めます。
それでも十分な被験者が集まらない場合は、医局長や教授に協力を求めたり、置き手紙を残したり、場合によっては他の医師から患者さんを紹介してもらうこともあります。
被験者の登録促進は、CRA(臨床開発モニター)にとって大きな課題の一つです。
モニタリング
治験がGCP(治験を実施する際に遵守すべき基準)とプロトコール(治験実施計画書)に従って行われているかを確認(モニタリング)します。
プロトコール(治験実施計画書)違反がないかを調査 CRF(症例報告書)のチェック SDV(原資料との照合・検証) モニタリング報告書の作成 クエリー対応
プロトコール(治験実施計画書)違反がないかを調査
プロトコール(治験実施計画書)に従って治験が行われているか、効果が確認できるか、有害事象が発生していないかを調査します。
プロトコール(治験実施計画書)違反の主な調査項目
- 被験者ごとに原資料、同意文書、説明文書が揃っている
- 被験者が選択基準に該当し、かつ除外基準に該当しない
- 併用禁止薬が使用されていない
- 検査データが基準を満たしている
- 有害事象や逸脱理由が記録されている
人員が不足すると、「1CRA2プロトコール」「1CRA3プロトコール」のように、一人のCRA(臨床開発モニター)が複数の治験を担当することもあります。その場合、残業も増える傾向があります。製薬会社では、一人のCRA(臨床開発モニター)が複数の治験を担当することが一般的です。
治験の期間は数ヶ月から数年と様々ですが、CRA(臨床開発モニター)は担当したプロジェクトから途中で抜けることは難しいため、期間が終わるまで同じ治験を継続して担当することが多いです。
プロジェクトの内容によっては、一人のCRA(臨床開発モニター)が10以上の施設を担当することもあります。その場合は、モニタリング以外の業務を他の人に分担するなど、CRA(臨床開発モニター)の負担を軽減する体制がとられています。
CRF(症例報告書)のチェック
CRF(症例報告書)が正確にEDCに入力されているかを確認します。特に、プロトコール(治験実施計画書)から逸脱した場合の記入方法には注意が必要です。
《 CRF(症例報告書)の主な内容 》
- 患者の属性や病歴
- 投与薬、併用薬
- 全ての臨床データ(血液、尿、X線、心電図など)と所見
- 自覚症状
- 中止の理由
- 有効性
優秀なCRA(臨床開発モニター)は、治験コーディネーター(CRC)と良好な協力関係を築くのが得意な方が多いです。
SDV(原資料との照合・検証)
被験者の最初の登録時や、CRF(症例報告書)の最初と最後の作成時などに、原資料(電子カルテや看護師のメモなど)とCRF(症例報告書)の内容を照らし合わせて、転記漏れや転記ミスがないかを一つ一つ確認します。
《 SDVの具体例 》
- 有害事象が回復した日などの追記がCRF(症例報告書)に記載されていない
- カルテには「胃痛」と書かれているが、CRF(症例報告書)には「胃部不快感」と記載されている
- カルテには「来院の3日前から喉の痛み」と書かれているが、CRF(症例報告書)には「来院日から喉の痛み」と記載されている
また、今後のPMDA(医薬品医療機器総合機構)の調査に備えて、必要な資料を集めて保管しておきます。
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- リスクベースドモニタリングとは何ですか?
モニタリング報告書の作成
モニタリング報告書には、治験中のあらゆる事項を記載する必要があります。簡潔に、漏れなく記載するようにしましょう。
《 モニタリング報告書の主な入力内容 》
- 被験者から治験参加前に文書で同意を得ているか
- 適格な被験者だけが治験に組み込まれているか
- 被験者の経過状況
- 有害事象が発生していないか
- 治験責任医師などが治験実施計画書やGCPに従っているか
- 治験責任医師などがそれぞれの分担業務を守っているか
- 治験薬の管理状況・情報の提供
クエリー対応
CRF(症例報告書)に不整合なデータ(記入漏れ、誤字、番号違い、プロトコールに定められていない項目の入力など)がある場合、 品質管理の部署から確認の問い合わせがあります。
その場合は、電子カルテを見直したり、治験担当医師などに確認をするなどして、CRF(症例報告書)の修正を行う必要があります。
スケジュールの管理がしっかりとできていないと、遠方へ出張したにもかかわらず治験責任医師などに会えなかったなどの困ったことが起こり得ます。その場合は、モニタリング報告書にその理由や対応策を記載する必要があります。
有害事象対応・治験の終了
有害事象への対応を行います。最後に、治験の終了手続きを行います。
有害事象の対応
有害事象とは、治験中に発生した好ましくない出来事のことです。 有害事象が発生した場合は、医師に重篤度の判断を依頼します。
重篤な有害事象が発生した場合は、IRB(治験審査委員会)に報告し、治験薬との因果関係を特定します。有害事象の発生状況や重篤度、因果関係の評価結果などの安全性に関する情報は、他の治験参加医療機関や治験責任医師と共有します。
重篤な有害事象
- 死亡に至るもの
- 生命を脅かすもの
- 治療のための入院あるいは入院・加療期間の延長が必要なもの
- 永続的あるいは重大な障害・機能不全を引き起こすもの
- 先天異常を引き起こすもの
治験の終了処理
医療機関のSOP(標準作業手順書)に従って手続きを行います。医療機関に保管されている治験薬を回収し、CRF(症例報告書)や必須文書に問題がないかを確認します。
各種の申請処理や、医薬品医療機器総合機構(PMDA)からの書面調査と実地調査への対応が終われば、すべての治験が終了したことになります。
次回の治験が予定されている場合、たとえば、今回が第2相の治験だった場合、今回の経験を振り返り、次回の第3相に向けて準備を進めます。
しかし、経験が豊富なCRA(臨床開発モニター)は、重篤な有害事象への対応もスムーズに行えることが多いです。色々な経験を積み重ねて、常にレベルアップを目指しましょう。