CRA(臨床開発モニター)の仕事内容とやりがい

CRA(臨床開発モニター)の仕事内容とやりがい

CRA(臨床開発モニター)は、治験を実施する際に遵守すべき基準であるGCPや治験の計画書に従って、治験が適切に行われるように監視(モニタリング)する仕事です。製薬会社や病院で働くさまざまな職種の方と協力して業務を行います。

この記事では、現役のCRA(臨床開発モニター)の声や現場の裏話、写真やイラストを交えて、CRA(臨床開発モニター)の仕事内容を分かりやすく解説しています。「CRA(臨床開発モニター)って何をする人?」「CRA(臨床開発モニター)の仕事内容が分からない!」という方は、ぜひご覧ください。

01治験開始前の準備

CRAの仕事は治験を行うための準備から始まります。

プロトコール(治験実施計画書)の作成をサポートし、医療機関と医師の適性を調査します。

治験開始前の準備

プロトコール(治験実施計画書)の作成

書類作成

製薬会社の開発企画担当者やメディカルライターは、治験の目的や手順などを記載したプロトコール(治験実施計画書)の原案を作成します。

その原案に対して、プロジェクトリーダーや医師が意見や修正を加え、実際の治験進行中に問題が発生しないような何十ページにも及ぶ書類を完成させます。

その後、完成したプロトコール(治験実施計画書)は、IRB(治験審査委員会)に提出され、承認を得ます。

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プロトコル(治験実施計画書)の主な内容
現役CRAのコメント21
プロトコール(治験実施計画書)は何十ページもあり、多くの事務作業が必要です。そのため、法律や規制に詳しい開発企画担当者や、書類作成の専門家であるメディカルライターが中心になって作成します。CRA(臨床開発モニター)が中心となって作成することはありません。
現役CRAのコメント24
治験は、薬の効能別に「プロトコール」という単位で実施されます。例えば、Aという薬が胃がんと肺がんの両方に対して効果が期待される場合でも、被験者や条件を分けて別々に治験が行われます。

医療機関の調査

調査

MRや他の医療機関の治験担当医師から情報を得たり、ホームページや治験審査委員会のSOP(標準業務手順書)、内規などを参照したりして、治験の実施状況に関する情報を集めます。

治験が適切に実施されているかどうか、治験を行う際の手続きや治験費用、補償と賠償、SDV受入状況など、その医療機関で治験を行うために必要な条件を確認します。

現役CRAのコメント17
治験に参加していただける患者さんが多ければ、臨床開発の期間も短縮できます。新薬を世の中に早く届けるためには、臨床開発を始める前の医療機関の調査が重要です。

治験責任医師の調査

医師の調査

治験責任医師がGCP(治験を実施する際に遵守すべき基準)42条の要件を満たしているかどうかを確認します。

具体的には、GCPを十分に理解して遵守できること、モニタリングや調査の受け入れが可能であること、募集期間内に適切な被験者を集められることなどを調査します。

現役CRAのコメント1
治験に協力的な治験責任医師であれば、治験がスムーズに進みます。治験の経験が豊富で、多くの治験に参加できる患者さんを診察している医師が理想的です。多くの被験者を確保してくれることが期待できます。

IRB(治験審査委員会)の調査

部署への説明

IRB(治験審査委員会)の構成委員や開催要件が、GCP(治験を実施する際に遵守すべき基準)に準拠しているかどうかを、議事録やSOP(標準作業手順書)から確認します。

現役CRAのコメント2
GCP(治験を実施する際に遵守すべき基準)に従って治験が行われていなければ、そこで得られたデータが全て無効になる可能性があります。特にIRB(治験審査委員会)が適切に運営されているかどうかは慎重に調査します。

02治験契約の締結

CRAになって3年ぐらいから契約関連の仕事にも携わります。

治験契約書を作成し、医療機関と製薬会社との間で治験契約を結びます。その後、IRBの承認を得ます。

治験契約の締結

治験契約書の準備

資料のチェック

契約書の内容を事前に確認します。特に、費用や賠償金額については注意深く確認します。

《 契約書の主な内容 》

  • GCPの遵守について
  • 副作用が発生した際の通知方法
  • 治験の継続や中止の基準
  • 治験薬の管理方法
  • 機密保持について
  • モニタリングへの協力内容
  • 症例報告書の提出方法
  • 費用と賠償金額

治験契約の締結

商談成立

プロトコール(治験実施計画書)や治験責任医師の責任範囲について合意した後、契約書を締結します。

現役CRAのコメント3
治験薬を投与しなかった場合の費用負担など、医療機関との厳しい交渉が続きます。CRA(臨床開発モニター)の交渉力が試される場面です。特に賠償については、医療機関が不利益を受けないようにしながら、製薬会社の利益も守る必要があります。

IRB(治験審査委員会)の開催

委員会

IRB(治験審査委員会)を開催し、審査を依頼します。CRA(臨床開発モニター)は、IRB(治験審査委員会)がGCP(治験を実施する際に遵守すべき基準)に準拠して運営されているかどうかを確認した上で、治験を行うための承認を得ます。

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CRAの辛いことは試験の立ち上げ時のIRBの締め切り
現役CRAのコメント28
CRA(臨床開発モニター)は、IRBの開催日までに必要な書類を準備する必要があります。準備が間に合わない場合は、治験の開始時期が遅れることになります。

治験の終了日の変更は難しい場合が多ため、治験の実施期間が短くなり、治験のスムーズな進行に影響を及ぼしてしまう可能性があります。

03治験の開始

いよいよ治験が始まります。頑張りましょう!!

医療機関の関係者に治験の内容を説明します。

治験の開始

医療機関への治験の説明

勉強会

治験について説明するため、医療機関で勉強会を開催します。

この勉強会では、治験薬やプロトコール(治験実施計画書)、SOP(標準業務手順書)の詳細について説明します。特に治験コーディネーター(CRC)とは、全ての疑問点が解消されるまで、繰り返し打ち合わせを行います。

勉強会には、治験責任医師や治験コーディネーター(CRC)だけでなく、看護師・臨床検査技師・薬剤師・事務局担当者など多くの関係者が参加します。

《 SOP(標準業務手順書)の主な内容 》

  • 治験実施計画書
  • 治験薬概要書
  • 安全性情報の取り扱い
  • 治験薬の管理
  • モニタリング全般
  • 監査

《 プロトコール(治験実施計画書)の主な内容 》

  • 治験の概要
    1)目的
     ・対象患者、治験薬名、投与量、投与期間、目指す効果など
    2)対象
     ・選択基準(性別、年齢など最低限満たさなければならない条件)
     ・除外基準(合併症、基礎疾患、アレルギー、妊婦など治験に参加できない条件)
    3)被験者への説明と同意に関する記述
    4)目標症例数
    5)治験実施期間
    6)治験薬剤
    7)治験方法及び投与方法
  • 治験計画の背景(開発の経緯、毒性作用、薬理作用、先行試験の結果など)
  • 治験の方法
    1)治験の種類
    2)治験のスケジュール(投与期間など)
    3)被験者の募集・登録方法
    4)投与方法 など
  • 治験の中止、脱落基準
  • 被験者の機密保持(被験者は識別コードを使用、実名は症例報告書には記録しない)
  • データの解析方法

《 治験薬概要書の主な内容 》

  • 薬の開発経緯
  • 薬の性質や組成
  • 前臨床試験の結果(薬の効果や安全性など)
  • 海外の臨床薬理試験のデータ

現役CRAのコメント15
CRA(臨床開発モニター)は、治験責任医師や担当医師、施設スタッフなどと信頼関係を築く必要があります。

最初は訪問頻度を多くしたり、治験コーディネーター(CRC)と相談しながら医師の性格を把握したり、メールの書き方や病院特有のマナーなどに気をつけながら、信頼関係を築いていきます。診察の邪魔をして、医師を不機嫌にさせることは避けましょう。

各関係者との調整

関係者との調整

CRA(臨床開発モニター)は、治験をスムーズに進めるために、様々な立場の人と情報交換を行います。

CHECK各関係者と打ち合わせが必要な内容

  • 病院の長・・治験を始めるときや、重要な情報を報告
  • 治験責任医師/PI・・治験が適切に行われているかを全体的に確認
  • 治験分担医師/SI・・治験が適切に行われているかを個別に確認
  • 医事課・・費用
  • 薬剤師/治験薬管理者・・服薬のスケジュールや方法
  • 臨床検査技師・・検査項目や検査スケジュール
  • 放射線技師・・検査項目やフィルムの扱い
  • 看護師・・患者の対応方法
  • SMA・・書類の管理方法
  • CRC・・治験において終始情報を共有する
  • DM・・データに不備がある場合は修正の指示を求める
  • PV・・医薬品の安全性情報を確認
  • QC・・モニタリング報告書などについて不備がある場合は指示を求める
  • 開発企画・・治験実施計画書(プロトコール)の内容を確認
  • MW/薬事・・申請書類や報告書の作成の際にアドバイスを求める

CRAが関わる人達

PV・DM・CRC・SMAの仕事内容はこちら

04同意説明文書の作成・被験者の登録促進

目標症例数を達成するためには多くの被験者が必要です。

同意説明文書の作成をサポートし、被験者の登録を促進します。

同意説明文書の作成・被験者の登録促進

同意説明文書の作成

治験責任医師は、被験者から治験への参加について同意を得るために使用する同意説明文書を作成します。CRA(臨床開発モニター)は、同意説明文書の作成に必要な資料を提供したり、内容を確認したりしてサポートします。

《 同意説明文書に記載する内容 》

  • 治験の目的
  • 治験責任医師の氏名や連絡先
  • 治験の方法
  • 予測される治験薬の効果および不利益
  • 秘密保持
  • 補償に関することなど

被験者登録の促進

インフォームド・コンセント

治験を行う際に困難な場面の一つが被験者の登録です。CRA(臨床開発モニター)は様々な方法で、被験者の登録を促進します。

詳しくはこちら
被験者スクリーニング

CHECK被験者の登録促進の具体例

  • 登録基準に該当する被験者が少ない場合
    治験担当医師に協力をお願いしたり、電子カルテのスクリーニングを行ったり、ボランティアや広告を利用するなどして、被験者の登録数を増やします。

  • 登録基準に該当する被験者はいるが、治験への参加に同意してくれない場合
    治験への参加を促すための資料を用意したり、治験コーディネーター(CRC)と相談してインフォームド・コンセントの方法を見直したりして、治験への参加率を高めます。

現役CRAのコメント5
CRA(臨床開発モニター)は、直接患者さんに治験の説明をすることはできません。そのため、治験責任医師や治験コーディネーター(CRC)が仕事をしやすい環境づくりをすることが、CRA(臨床開発モニター)の重要な役割になります。
現役CRAのコメント11
優秀なCRA(臨床開発モニター)は、被験者の確保が得意です。治験責任医師との日々のコミュニケーションを通じて、治験に参加できそうな患者さんを粘り強く探しています。

それでも十分な被験者が集まらない場合は、医局長や教授に協力を求めたり、置き手紙を残したり、場合によっては他の医師から患者さんを紹介してもらうこともあります。
現役CRAのコメント16
症例登録が進まない原因は様々です。例えば、「施設の選定が不適切である」「適格性の判定方法が複雑すぎる」「母集団が少ない」「競合する新薬の出現」「知識不足である」「医師が協力的でない」「医師との相性が悪い」「忙しくて時間がない」「治験コーディネーター(CRC)が協力的でない」などが考えられます。

被験者の登録促進は、CRA(臨床開発モニター)にとって大きな課題の一つです。

05モニタリング

CRAの代表的な業務と言えばモニタリング業務ですね。

治験がGCP(治験を実施する際に遵守すべき基準)とプロトコール(治験実施計画書)に従って行われているかを確認(モニタリング)します。

モニタリング

プロトコール(治験実施計画書)違反がないか調査 CRF(症例報告書)のチェック

プロトコール(治験実施計画書)違反がないかを調査

違反をチェック

プロトコール(治験実施計画書)に従って治験が行われているか、効果が確認できるか、有害事象が発生していないかを調査します。

CHECKプロトコール(治験実施計画書)違反の主な調査項目

  • 被験者ごとに原資料、同意文書、説明文書が揃っている
  • 被験者が選択基準に該当し、かつ除外基準に該当しない
  • 併用禁止薬が使用されていない
  • 検査データが基準を満たしている
  • 有害事象や逸脱理由が記録されている

現役CRAのコメント23
CROでは「1CRA1プロトコール」が一般的です。「1CRA1プロトコール」とは、一人のCRA(臨床開発モニター)が、一つの新薬の治験を担当することです。

人員が不足すると、「1CRA2プロトコール」「1CRA3プロトコール」のように、一人のCRA(臨床開発モニター)が複数の治験を担当することもあります。その場合、残業も増える傾向があります。製薬会社では、一人のCRA(臨床開発モニター)が複数の治験を担当することが一般的です。

治験の期間は数ヶ月から数年と様々ですが、CRA(臨床開発モニター)は担当したプロジェクトから途中で抜けることは難しいため、期間が終わるまで同じ治験を継続して担当することが多いです。
現役CRAのコメント22
一つのプロトコールにつき、何十という施設で同時に治験が行われます。すべての施設を一人のCRA(臨床開発モニター)が担当することは難しいため、一人のCRA(臨床開発モニター)につき3~7施設ずつに分担してモニタリングを進めることが一般的です。

プロジェクトの内容によっては、一人のCRA(臨床開発モニター)が10以上の施設を担当することもあります。その場合は、モニタリング以外の業務を他の人に分担するなど、CRA(臨床開発モニター)の負担を軽減する体制がとられています。

CRF(症例報告書)のチェック

書類のチェック

CRF(症例報告書)が正確にEDCに入力されているかを確認します。特に、プロトコール(治験実施計画書)から逸脱した場合の記入方法には注意が必要です。

《 CRF(症例報告書)の主な内容 》

  • 患者の属性や病歴
  • 投与薬、併用薬
  • 全ての臨床データ(血液、尿、X線、心電図など)と所見
  • 自覚症状
  • 中止の理由
  • 有効性

現役CRAのコメント6
治験担当医師や治験コーディネーター(CRC)が経験不足の場合は、CRF(症例報告書)を作成する際に間違いが発生しやすくなります。CRA(臨床開発モニター)は、正確にEDCに入力できるようにアドバイスを行います。
現役CRAのコメント14
治験コーディネーター(CRC)が協力的でない場合、EDCへのデータ入力が遅れたり、入力してもらえなかったりすることがあります。そのような場合は、プロトコール違反やPMDA(医薬品医療機器総合機構)査察の際に問題が発生する可能性が高まります。そのため、必要に応じて催促することもあります。

優秀なCRA(臨床開発モニター)は、治験コーディネーター(CRC)と良好な協力関係を築くのが得意な方が多いです。
現役CRAのコメント19
国際共同治験では、CRF(症例報告書)のチェックやクエリー対応などは全て英語で行われます。英語が苦手な人は大変だと感じることが多いでしょう。

06有害事象対応・治験の終了

プロジェクトの期間はおよそ2年です。お疲れ様でした。

有害事象への対応を行います。最後に、治験の終了手続きを行います。

有害事象の対応・治験の終了処理

有害事象の対応

悩む人

有害事象とは、治験中に発生した好ましくない出来事のことです。 有害事象が発生した場合は、医師に重篤度の判断を依頼します。

重篤な有害事象が発生した場合は、IRB(治験審査委員会)に報告し、治験薬との因果関係を特定します。有害事象の発生状況や重篤度、因果関係の評価結果などの安全性に関する情報は、他の治験参加医療機関や治験責任医師と共有します。

CHECK重篤な有害事象

  • 死亡に至るもの
  • 生命を脅かすもの
  • 治療のための入院あるいは入院・加療期間の延長が必要なもの
  • 永続的あるいは重大な障害・機能不全を引き起こすもの
  • 先天異常を引き起こすもの

有害事象の対応

現役CRAのコメント18
国際共同治験では、日本だけでなくグローバルの安全性部門からも問い合わせがあります。時差もあるため、臨床開発のスケジュールが厳しくなる傾向があります。

治験の終了処理

終了

医療機関のSOP(標準作業手順書)に従って手続きを行います。医療機関に保管されている治験薬を回収し、CRF(症例報告書)や必須文書に問題がないかを確認します。

各種の申請処理や、医薬品医療機器総合機構(PMDA)からの書面調査と実地調査への対応が終われば、すべての治験が終了したことになります。


次回の治験が予定されている場合、たとえば、今回が第2相の治験だった場合、今回の経験を振り返り、次回の第3相に向けて準備を進めます。

現役CRAのコメント9
がん(オンコロジー)領域などの治験を担当する際は、重篤な有害事象が頻繁に起こる場合もあり大変です。

しかし、経験が豊富なCRA(臨床開発モニター)は、重篤な有害事象への対応もスムーズに行えることが多いです。色々な経験を積み重ねて、常にレベルアップを目指しましょう。
現役CRAのコメント27
治験が終了する時期になると、CRAは治験の終了手続きを進めるために、施設を訪問する頻度が高くなることが多いです。
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